「それでもボクはやっていない」「半落ち」「相棒」… 刑事事件を描いた映画・ドラマは数多くありますが,刑事事件とは何かを正確にご存じでしょうか。

  刑事事件と民事事件とは,全く異なります。一番の違いは,民事事件が「一般人」対「一般人」の争いであるのに対し,刑事事件は「国家(警察,検察組織)」対「一般人(被疑者・被告人)」との争いである,という点です。

  AがBを殴ったとします。このとき,BがAに慰謝料を請求するのが民事事件。一方,Aに暴行罪が成立するか,成立するとしてどれぐらいの刑にするかを決めるのが刑事事件です。

  このとき,殴ったのが間違いないのであれば,もちろん殴ったAが悪いのですが,そう簡単な問題ではなく,AにはAの言い分があるはずです。本当はAではなくCが殴ったのだとか,「Aが殴った」というのはBの狂言だったとかで,Aは無実ということもありうるでしょう。BがAをナイフで刺そうとしたため,AはBを殴ったのかもしれません。また,Aがすべって転んだために,Bにあたっただけかもしれません。

  捜査機関(警察,検察)は,多数の捜査員(警察官,検察官),強大な捜査権限(逮捕,勾留,捜索,差押えなど),膨大な捜査費用(税金)を背景として,Aの有罪を立証するための証拠を集め,これを裁判所に提出します。一般人であるAは,人数の面でもお金の面でも強制捜査権の面でも,捜査機関の前にあっては,本当に無力な存在になってしまいます。もし逮捕・勾留されてしまうと,家族に相談したり,自分で無罪の証拠を集めたり,Bに謝ったりすることも自由にできなくなってしまいます。

  こういうとき,登場するのが,刑事弁護人です。刑事弁護人は,Aの言い分をよく聞き,これを法律的に構成して主張します。人違いにより無罪であるとか,故意がないから無罪であるとか,正当防衛が成立するから無罪であるとか,あるいは有罪であるとしてもBにもこのような落ち度があったからAを強く責めることはできず刑を軽くすべきであるなど様々です。また,Aに暴行罪が成立することが間違いない場合には,弁護人は,Aの謝罪の手紙をBに渡したり,Bとの間で示談交渉をしたりして,Aの刑が軽くなるような活動をします。

  このようにして,弁護人と被疑者・被告人がタッグを組んで,捜査機関に立ち向かってゆき,被疑者・被告人の正当な言い分が認められるように努力するわけです。検察官は,被疑者を有罪にするだけの証拠がなく起訴できないと判断するかもしれませんし(不起訴),Aが深く反省しておりBも許しているから今回に限り起訴しないと判断するかもしれません(起訴猶予)。

  一方,有罪の証拠があると検察官が判断すれば,Aに刑罰を科すことを求めて,裁判所に起訴します。起訴されると,被疑者から被告人という呼び方に変わります。弁護人は,被告人の主張にそって,Aの主張を裏付ける証拠や証人を請求したり,検察側の証拠の不備を指摘したり,法的な主張を書面にまとめたりします。裁判所は,検察側の主張と弁護人・被告人の主張の双方を吟味し,証拠に基づいて,Aに犯罪が成立するか,成立するとしてどれぐらいの刑にするかを決めます(判決)。

  弁護人は,捜査段階でも付けることができますし,起訴された後,裁判になってからでも付けることができます。ただし,捜査段階でAがどんなことを話していたかが問題になることがありますので,早めに相談や依頼をするのが賢明でしょう。

  これが刑事事件の一連の流れです。